奈良家庭裁判所 昭和48年(少)127号 決定 1973年3月27日
少年 U・J(昭三四・九・一五生)
主文
本件を奈良県中央児童相談所長に送致する。
奈良県中央児童相談所長は、教護院において昭和五〇年三月二六日までの間に必要に応じ、通じて三〇〇日間少年の行動の自由を奪い、またはこれを制限するような強制的措置をとることができる。
理由
1 少年は、生後一年四月頃よりてんかん発作を起こすようになり、小学校に入学後乱暴や窃盗を重ね、小学校二年の時奈良県中央児童相談所のあつせんで精神科医の診察を受けた結果真性てんかんであることが判明、投薬治療を受けるようになり、昭和四二年六月奈良県立○○学院(教護院)に収容されたが、集団生活に協調することができず、乱暴傷害、窃盗等の反則行為を繰返していた。そして保護者の無理解から一時退院したが、家庭内外でも、乱暴や窃盗がやまず、精神病院に一時入院したこともあるが、昭和四五年三月前記教護院に再収容された。
2 上記教護院に在院中引続き投薬治療を受けていたが、依然として集団生活に協調することができず、反則行為が続き、昭和四八年一月以降無断外出、帰宅を繰返し、その都度金銭、自転車等の窃盗、無賃乗車を重ね、家族殊に母に対し金銭を強要して乱暴をなし、家庭外においては、パチンコに興じ、単車に興味をもつようになり、これを窃取するなどして反社会性が一段と進んで来た。
3 かように、少年の器質障害としてのてんかん症状による性格と家庭の監護の不適切、医療の不充分等のため、少年の知能低下、人格の低格化が次第に進みその性格は、爆発性、気分易変性、粘着性、衝動性を示し、超自我形成の弱体と相まつて、少年の人格の病源には根深いものが感じられる。また、保護者には監護能力がないというより、むしろ、少年をこれに委ねることさえ適当でなく、しかも少年を従来の開放的な教護院で教育することも困難といえる。そして、少年の反社会的行為の常習反復のおそれは今後ともに強く、少年をこのまま放置することは一時たりとも許されない。
以上の諸点を総合すると、少年の矯正教育のためには適宜逃走防止の強制的措置をとることも止むを得ないと認められるとともに、かつ必要に応じ強力な医療措置を講ずる必要が認められる。
よつて少年法一八条二項を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 安達竜雄)
参考一 少年調査記録<省略>
参考二 奈良県中央児童相談所長作成の送致書
児相第一九九号
昭和四八年三月五日
奈良県中央児童相談所長
奈良家庭裁判所長殿
児童福祉法第二七条の二の規定による事件の送致について
このことについて下記児童は、行動の自由を制限する等の強制的措置を必要としますので児童福祉法第二七条の二の規定により関係書類を添え送致いたしますからご承認下さるようよろしくお願いいたします。
記
1 児童名等
児童
保護者
氏名
U・J
U・S
年齢
昭和三十四年九月十五日
大正九年二月二十四日
性別
男
男
職業
大淀町立○○中学校一年生
土工
現住地
吉野郡○○町○○○○○
吉野郡○○町○○○○○
児童の本籍地
朝鮮慶尚北道迎日郡○○○○○○×××
児童が現に収容されている施設及所在地
奈良県立○○学院 奈良市○○町×××番地
2 強制的措置を必要とする事由
上記児童は、昭和四五年三月一一日づけで児童福祉法第二七条第一項第三号の規定により奈良県立○○学院に入所措置した児童でありますが、てんかんとそれに伴う性格異常および行動異常が顕著であつて施設内では性情が不安定のため、行動が衝動的で爆発的な過活動を示し他の入所児童との対人関係も極めて不良であります。
更に無断外出が頻繁であり、そのたびごとに窃盗をはたらき、現在では、常習化しており、学院での教護はすでに限界に達しているものと認められますのですみやかに充分な医療管理と拘束設備を有する施設へ入所させる必要があります。
3 入所予定施設名
埼玉県浦和市大字大門一〇三〇国立武蔵野学院